縫いから染めまで、手作業で
「これを手に取る人はどんな人だろうか」、いつかこの製品の持ち主となる人を思い浮かべながら柄を作っていきます。縫い絞り、板締め、ロウケツなどさまざまな技法を組み合わせ、時には1ヶ月以上かけて柄を作り出します。縫ってからギュッと絞る際に糸がプチッと切れることがあります。厚い生地を縫い絞る際に針がポキッと折れることがあります。そうしたら、もう一度始めからやり直します。誰かにとっての宝物となるように一針一針想いを込めて縫っていきます。
衣類を染める場合は、重なり合った部分をトンカチで丁寧に叩いていきます。藍は浸透ではなく付着する染色なので、生地が重なり合った固い部分はそのままでは染まらず、何もしなければ白く残ります。ぱっと見た目ではわからない細かい部分まで藍色に染まるように、トンカチで叩いて柔らかくするのです。染液の中で細部まで手で擦れるように、一方で衣類の形が崩れてしまわないように、絶妙な加減で叩いていきます。トントン、トントン、地道で根気のいる、とても大切な作業です。
絞りや叩きなど準備ができたら、仕上げたい濃淡になるように手作業で丁寧に染め重ねます。藍の染液は、その日の気温、湿度、天気、はたまた染め師の体調によっても染まり具合が変化します。その日の藍のご機嫌に合わせて染液と会話するように染めていきます。染液と向き合う、静かで深い時間です。
何度も染め重ねる中の、まず1回目。染めている間は、染液と同じ茶色い色をしています。これは藍の色素が液に溶けている状態です。これを水で発色させると…
みるみるうちに鮮やかな藍色に変化していきます。これは布に付着した藍が酸化されてギュッと固まり、水に溶けない状態に変化したからです。幾度も染めをしていても、この瞬間の感動は色あせることがありません。
染めたい濃淡になるように染め重ねたら、柄の部分をほどいていきます。布を切ってしまわないように慎重に、綺麗に柄が出ているか緊張しつつほどいていきます。智頭の「澄んだ藍色」に美しい情景が浮かび上がります。
染めたあとは、数週間冷暗所で色を落ち着かせて、仕上げにもう一度しっかり洗えば完成です。誰かにとっての宝物になりますように。